入団への道(12)

今日は、昨日の長時間のバス移動の疲れを考慮し、軽めの練習が行われました。しかし、私は、テイクバックの際に「間」をとり、開きを抑えることを意識して、通常より多めのキャッチボールを行いました。明日の試合で登板があれば、この形で投げられるようにしたいと思います。それでは今日は、高知遠征の移動中に仕上げた「入団への道」の話の続きをご覧いただきたいと思います。
前回は、ドミニカ共和国での初完投を完封で飾り、その夜、阿南さんにご馳走になり、とても楽しい時間を過ごしたところまでお伝えしました。
7月に入りました。当然のことながら、暑さは続きます。しかし、完投をしたことが、私に大きな自信と更なる意欲を植え付け、次第に投球内容が向上してきました。この頃までに、日本から持ち込んだ技術書を参考に練習を重ねてきた、スライダーの完成度が高まり、試合で威力を発揮するようになりました。モデルにしたのは、桑田さん(当時巨人)のスライダーです。この球は、それまでに投げていたカーブに近い変化球と違い、曲がりが小さい分コントロールがしやすく、球速があるために、打者がストレートが来たと思って反応してくれました。自信を持って投げられる変化球を得たことで、ストレートで打者を打ち取るケースも増えてストレートにも自信がついてきました。新球習得による相乗効果です。
少しずつですが、阿南さんの口からも、登板後にお褒めの言葉が出るようになりました。そしてついに、
「浩司、今日は良かったぞ。今日のフォームを忘れるな。」
という嬉しい言葉を引き出すことに成功したのが、7月2日に行われた紅白戦後のことでした。この日は、ストレート、スライダー共にキレがあり、3回を1安打8奪三振という内容でした。
振り返ると、阿南さんがドミニカに来て下さったことは、とても幸運でした。その独特なクールな雰囲気と、求めるレベルの高さが、私にいい緊張感を与えてくれました。この時期の私の成長に阿南さんの存在が影響を及ぼしていたのは間違いありません。阿南さんは、私に、
「ストレートだけで勝負する試合を作ってみろ。」
という宿題を残して、7月15日に帰国されました。最後の宿題は、粗さはあるものの、身体能力が高く、ストレートに強いドミニカ人選手を相手にはなかなか難しいものでした。しかし、私の投球に成長を認めたからこそ出した宿題であると考えると、意気に感じて、また新たな意欲が沸いてきました。投手の基本はストレート。ストレートを磨くことがレベルアップに不可欠であることを伝えたかったのだと思います。阿南さん、本当にありがとうございました。
阿南さんに変わってドミニカにやって来たのは、田中尊さん。田中さんは、かつてのカープの正捕手。現役引退後は、コーチとして古葉、阿南両監督を支え、チームをリーグ優勝、日本一に導いた名参謀でした。これまた凄い人です。
田中さんは、阿南さんとはまた違ったタイプで、思ったことは、ストレートに言って下さる方でした。
「なんじゃあそりゃ!」
「あかん!あかん!」
「ただ投げればいいって訳じゃないぞ!頭を使わんか!」
厳しい言葉もたくさんいただきました。また、現役時代の捕手の経験を生かして、配球面や投球フォームに関することまで、様々なことを教えていただきました。
最初は、ちょっと怖い人だと感じましたが、次第に、裏表のない、ストレートな性格の田中さんが好きになりました。そして、あるとき、口では厳しいことを言っていながら、目は常に笑っていることに気付きました。優しい人なのです。そんな優しい田中さんも、これから迎える厳しいドミニカでの終盤戦を支えて下さった恩人です。
7月の後半、私の体に異変が起きました。まず最初は、風邪のような症状が1週間以上続きました。体が怠く苦しい状態が続きましたが、熱は無かったので、練習に参加し続けました。次の異変は、練習のない休養日に起きました。起床して、朝食を摂り、部屋で横になっていると脚に蚊にさされた跡のようなものがたくさんあることに気付きました。
「何だこれは!?」
そう思っていると、それは短時間で全身に広がりました。
「これはまずい。どうしよう・・。」
不安な気持ちになりました。ドミニカに来てから、医者にかかったことがなかったので、病院がどこにあるかも分かりません。助けを呼ぼうと思いました。しかし、少し考えて思い留まりました。この1週間ずっとそうでした。体調がすぐれないことをずっと隠して練習に参加し続けました。体は悲鳴をあげています。でも、誰にも打ち明けられない理由がありました。私は、テスト生です。ドミニカでの練習の内容や試合での結果及び自己分析を、週に1度、FAXで日本のカープ球団に報告することを上之さんから義務付けられていました。ドラフト候補を絞り込む大事な時期に、「体調不良の為、練習を欠席」などと報告書に書く訳にはいきません。ドラフト指名に向けてマイナス材料になるようなことは一切したくない。そんな考えが私を支配していたのです。
私は、その日一日をじっと部屋で耐え忍びました。じんましんだったのでしょうか。病名は病院へ行かなかったので分かりませんが、幸いなことに夕方になると少しずつ治まってきました。気持ちが張っていたので気が付きませんでしが、半年を超えた慣れない異国の地での生活、そして、何よりとどまることのない暑さが、私から少しずつ体力を奪っていたのだと思います。
この日、ドミニカに来て以来初めて日本が恋しくなりました。プロ入りへの強い執念によって封印されていた想いが、体力の低下と共に堰を切ったように流れ出すのを感じました。
「弱気になっては駄目だ。俺はまだ大丈夫。野球がやりたくてもできなかった時の気持ちを思い出せ。」
私は、後ろ向きな気持ちを再び自分の中に封印するために、誰もいない部屋で声を出して言いました。
翌日、何とか気力だけでグランドに立っていました。そんな時は悪い流れが続くもの。私は、チームメイトの一人、サンターナと些細なことで口喧嘩をして、彼をグランドから追い出してしまいました。彼は、アメリカのマイナーリーグでのプレー経験があり、ドミニカ人選手の中ではいつも輪の中心にいるような人物でした。確かに普段から何かとちょっかいを出してくるようなところはありましたが、いつもなら笑って聞けるようなことが、その日は聞き流すことができませんでした。この頃までに飛躍的に上達してきたスペイン語のヒヤリング力もこの時ばかりは、悪いほうに作用してしまいました。普段の言動から、彼に悪気はないことは明白でした。しかし、体調がすぐれないこともあり、私に余裕がなかったのです。全体練習後の自主練習の時間であったとはいえ、私に彼をグランドから追い出す権限などあるはずもありません。何と大人げないことをしてしまったのでしょうか。グランドから出ていく時のサンターナの苦笑いを浮かべた顔と、周りの選手の当惑した顔を思い出すと、
自分がとってしまった行動を後悔してもしきれませんでした。心の支えだったチームメイトが私から離れていってしまうのではないかと思うと、鋭利なもので引き裂かれたかのように心が痛み、心身ともにボロボロの状態で自分の部屋に戻りました。
その翌日の7月28日の試合に私は先発しました。非常に厳しい状況でしたが、私はやらねばなりませんでした。チームメイトの信頼を取り戻す為に。この日に限っては、自身のプロ入りに向けての課題克服よりも、必死で投げることによって、今までと何も変わらない、勝つ為に一生懸命頑張るHIROIKEの姿を見てもらうことしか頭にありませんでした。
相変わらずの暑さの中、途中、意識がもうろうとする場面もありましたが、気力だけで投げ抜いて、18個の三振を奪い完封勝利を収めました。試合後のハイタッチ。みんなはいつもと変わらぬ、いやそれ以上の満面の笑みで迎えてくれました。本当にいいチームメイトに恵まれました。私が昨日のことを気にして、朝からずっと無口だったのを心配していてくれたようです。サンターナとも笑顔でハイタッチ。そのタイミングで私から口を開きました。
「昨日は、ごめん。」
すると、サンターナは、
「全然気にしてないよ。それより、今日は今まで見た中で一番凄かった。ナイスピッチ!」
と言い、握手を求めてきました。私達はその場で固く握手を交わしました。
体はグッタリ。でも昨日とはうって変わって晴れやかな心をたずさえて自分の部屋に戻りました。
窓から見える夕焼けと、それを受けて鮮やかな光を放つカリブ海を眺めていると、胸から熱いものが込み上げ、自然と涙が溢れてきました。
「よかった。本当によかった・・。」
私は、そのままベッドに横たわると、全身を支配した安堵感に包み込まれるように眠りにつきました。
今日は、ここまでにします。次回は、日本へ帰国するところまでお話しできたらと思います。

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コメント(8)

いつも楽しいブログ
ありがとうございます

ドミニカの話は
異国の雰囲気が漂っていて
苦労もあったでしょうが
とても良い経験をされたんだなぁと感じています

広池選手はドミニカでは先発をされたりしていたみたいですが
カープでは主にリリーフ
昨年は先発があったりしました

よくプロ野球などをみていると
解説者などの方が
「この選手は先発タイプですからねぇ」

「この人は中継ぎで力を発揮するタイプです」
などよく言われています

巨人の上原選手は先発でも抑えでも活躍されましたし
元カープの大野さんなども両方で活躍されました

そこで質問なのですが
先発タイプと中継ぎ、抑えのタイプとはいったい何なのでしょうか?

面倒な質問ですみません
広池選手のわかる範囲で教えて頂けますと幸いです

新宿カープおやじ&母 : 2008年8月26日 09:06

広池さん、お疲れ様です。

入団への道(12)、読みごたえありました!
ありがとうございました。
もう、12回になるんですね。

18奪三振で完封!凄いです!
当時の広池さんの勇姿を思い浮かべながら読みました。

テスト生であるが故の、苦労に心打たれました。
この苦労が今の広池さんを支えているんですね。
プロになるんだと言う強い強い気持ち。
僕もかつて、自分が音楽で絶対にプロになるんだと、
がむしゃらに頑張っていた頃の事を思い出しました。

サンターナさんとの友情、グッと来ました。
いい指導者、いいチームメイトに恵まれるのは大事な事だし、
何より、ありがたい事ですね。

広池さんが見た、カリブの夕焼けは、
きっと真っ赤でとてもきれいだったんだろうな。

次回はいよいよ日本帰国篇! 楽しみにしています!

今日のサーパス戦、がんばって下さい!!!

広池さんの登板がありますように!!!
好投出来ますように!!!
強いボールが低めに集められますように!!!

がんばれ!僕らの28便!!!

広池さんお疲れ様です!

変化球は真っ直ぐが走ってこそ生きてくるとよく聞きますが、阿南さんもそんな気持ちで広池さんに言われたんでしょうね!
テスト生だからこそ頑張ってしまった気持ちを読んで、胸が苦しくなりましたが、プロになるってそうゆうことなんだなと改めてプロの厳しさを痛感しました!
でも野球が本当に好きだからできたことなんですよね!
今でもそうでしょうが、選手に助けられ、コーチに助けられ、たくさんの人に助けられてこそ頑張れるんでしょうね!
野球以外の人生でもそうだと思います!
自分もたくさん助けられて生きています!
感謝の気持ちを大事にしていかないといけませんね!

続きをまた楽しみにしています!

明日のサーパス戦頑張って下さいね!

頑張れ!広池さん!

はち兵衛 : 2008年8月25日 21:49

広池さんについてのコメントは他の方に任せて(笑)、あっしはドミニカ選手について書いてみやす。ドミニカの選手はとにかく親日で、陽気で、ナイスガイの連中なんで大好きでありやす。

長年カープの若手を見てきとりやすが、なかでも、ドミニカの選手・練習生には思い出がいっぱいありやす。

今日のブログに出てきたサンタナ。同じ名前の練習生が昨年までおりやしたね。今年は見かけやせんがどうしとるんでしょうか?
実はあっしは、サンタナに悪いことしてしもうて、それが今でも心残りでありやす。
※悪いことでありやすが、奴が「○○○」と言ったのに、その意味がはっきりせず「ノー」の返事をしたんでありやす。急に奴は寂しそうな顔をしたんでありやす。あとから考えると「イエス」と言っておけばよかったと。。。
「○○○」でありやすが、「○○をはち兵衛にやる」って意味じゃったみたいで。今思うと、奴は傷ついたかも。

それから一昨年戦力外になったフェリシアーノ。彼は日本語ペラペラなんで、会話になにも問題がありやせんでした。ドミニカンでいちばん心が通じあえた選手かもと思いやす。彼の悩みや不安などよく聞いてやりやした。「成功したらドミニカに大きな家建てて、はち兵衛を招待してやるよ」とか言っとりやしたが、幻になってしまいやした。

あと昨年解雇されたカリダー。奴の人懐っこさも忘れられやせん。今はマイナーにおるみたいでありやすが、ソリアーノみとうに成功して欲しいと思いやす。

あとペルドモ(広池さんはご存知ないハズ)。あっしのこと、いつも「おっさん、おっさん」と呼んどったんでありやすよ(笑)

全身に広がった蚊にさされた跡のようなもの、大事に至らずよかったです。。。読んでいてさえどうなるのか怖かったくらいですので、当時の広池さんの立場ではいろいろなことが頭をよぎり本当にたいへんだったことと想像いたします。

それにしても、ドミニカのみなさんは前向きで懐の深い方が多いですね。類は友を呼ぶではありませんが、ご自分から「昨日は、ごめん」と声をかける広池さんだから、よい仲間に恵まれたのだろうなーと思いました。

サンターナ選手はじめ、当時のチームメイトさん達の
活躍も祈ってしまいます(笑)。
後日談、差し障りありませんでしたらお時間あるときぜひ
お教えください。

おおとんび! : 2008年8月25日 17:52

こんにちは!
「人」を強くするものには、いろいろなものがありますが、やはり「心」に訴え、「心」をも動かすものが、多くの「力」をくれるように思います。
そして、その多くが、「人」によってもたらされるものであることも、お感じになった方も多いのではないでしょうか?
一方で、いろんな出来事が起こっても、自らの「仕事」で、良い方向へ導きながら、皆と一緒に歩んで行く姿は、やはり、「勝負師」としての「資質」が見え隠れしているように思えます。
結果を残して初めて、これまでの努力こそ認められるものの、次の成果を得るには、それ以上の努力をしても、保障されるものなど何もない世界です。
「よかった。本当によかった・・。」
と言う言葉の重さが、とてつもなく大きいもののように思えます。
由宇球場からの帰りのバスは、高速道路に向かって山側に向かいますので、「鮮やかな光を放つカリブ海」は、残念ながら見えませんが、大野ICで降りるのであれば、大竹ICを過ぎたあたりから、わずかに瀬戸内海の姿が見えるかもしれません。
石本美由起さんの作詞された、「憧れのハワイ航路」を生んだ景色でもありますが、そんな普段の景色も、何らかの形で、カープの「力」となってくれますよう願っております。
これまでやってこられたことが、より確実さを増し、それを裏付ける登板が、より多く巡ってきますこと祈っております。
では。

浩司、今日はやけに更新が早いな(阿南さんのマネ)。
カリブ海を眺めながら泣いて寝ちゃったところ。笑ったぞ。
さっきスーパーへ行ったら、カキ氷用のイチゴシロップが在庫処分セールになっていたぞ。
夏も終わりだなと思ったぞ。
東京は雨模様。チャオだぞ、殿。

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