入団への道(9)

今日、行われる予定だった、ウエスタンリーグのサーパス戦は、雨の為、早々に中止が決定しました。私たちは、新神戸から新幹線に乗って広島に戻り、13時から大野練習場で練習をしました。
今日は、110球の投げ込みと全身のウエイトトレーニング。盛り沢山の内容で充実した練習でした。雨によって試合での登板は実現しませんでしが、この1週間の練習内容はとても濃かったと思うので、必ず実戦でも成果が出ると思います。しっかり調整してその時を待ちたいと思います。
それでは、今日は入団への道の話の続きをさせていただきます。
ドミニカでの野球留学は、順調に滑り出しました。内容の良し悪しはあったものの、ウインターリーグでの4試合10イニングを無失点で切り抜けたことが、私のモチベーションを高めました。
ウインターリーグが終わり、試合がない期間が1ヶ月ほど続きました。私は、その期間を、体力強化とフォーム作りに費やしました。地道な練習の日々でしたが、上之さんと共に私に貴重なアドバイスを送って下さったのは、3月上旬にドミニカ入りされた、平山さんでした。この名前を聞いてピンときた方は、かなりのカープ通です。平山さんは、1955年から64年まで(62年から64年まではコーチ兼任)カープで活躍された日系アメリカ人で、小柄ながらも強肩と闘志あるプレーで、「フィーバー平山」の愛称で親しまれた選手でした。56年と58年にはオールスターにも出場されています。その平山さんは、私がドミニカにいた当時、カープの在米スカウトを務めていて、ドミニカにも定期的にやって来て、アカデミー選手の指導や能力のチェックをされていました。
その平山さんも、すぐに私のことを「浩司」と呼んでかわいがってくれました。平山さんからは、技術的なことはもちろん、精神的な面で前向きに生きることの大切さを教えて頂きました。現役時代の闘志溢れるプレースタイルが想像できないくらい、私の知る平山さんは、穏やかで、包み込むような優しい笑顔を絶やさない人でした。何よりも、平山さん自身が人生を楽しんでいる感じがにじみ出ていて、夕食時に大好きなビールを飲んでいるときの、その幸せそうな顔といったら、文章ではとても表現できません。平山さんは周りの人間を明るく、幸せな気持ちにさせてくれる力を持った人でした。
「いいねー、浩司!」、「頑張ってるなー、浩司!」、「大丈夫!」。
平山さんは、よく私を褒めてくれました。辛いときも、下を向かずに前を向いて生きる、ポジティブな思考を植え付けてくれました。平山さんもまた、間違いなく私の恩人です。
「辛いときも前を向いて生きる」。この精神無くして、この後のドミニカでの日々を生き抜くことは難しかったと思います。
投げ込み、走り込みを繰り返した1ヶ月が終わり、3月18日、久しぶりの実戦登板は、紅白戦でした。初回に力みが出て、ドミニカに来てはじめての失点。しかし、その後は立ち直り、3回を投げて、被安打4、奪三振6、与四球1、失点2という内容でした。ストレートに力強さがあり、トレーニングの成果が出た形となりました。上之さんからも、「2イニング目以降の投球なら、2Aでも充分に通用する。」と言われました。何か、こうやって具体的に言われると、とても嬉しかったです。
その後も、紅白戦に2試合登板して、迎えた3月31日。この日は、現在でも私の投球において重要な役割を果たしているフォークボールを修得した日として、忘れられない日となりました。この日行われた久々の対外試合で登板した私は、それまでキャッチボールや、ブルペンでのピッチングで練習を重ねてきたフォークボールを、試合デビューさせました。半年ほど前に、市民球場で行われた入団テストのブルペンで、調子に乗って適当にボールを挟んで投げた、あの「奇跡のフォーク」以来、練習すればいつかは強力な武器になると思って取り組んできました。今思えば、ボールを指に挟む動作が、まだぎくしゃくしていたので、癖がバレバレの状態で、ちょっと注意して見ていればフォークを投げるのがすぐに分かったと思いますが、細かいことは気にしない陽気なドミニカンは、思い切り空振りをしてくれました。その日は合計5球のフォークを投げましたが、うち4球が低めに決まりました。手応えありです。フォークを空振りした後の打者の顔が何とも言えません。快感でした。
試合を見守った上之さんも、「あれほどの角度のあるフォークを投げられる投手はなかなかいない。横浜の佐々木並だ!」と絶賛。
それにしても、あの大魔神並とは・・。上之さんそれはちょっと褒めすぎでは。でも、嬉しかったし、自信になりました。ありがとうございます!
ドミニカに来て3ヶ月が経ちました。4月の上旬は、セマナ・サンタ(聖週間・キリスト教の伝統行事)の休暇を挟んで、アカデミーは10日間ほどの休みに入りました。私は、上之さんの指示に従い、私が住むアパートの近くにある大きな公園で自主練習をすることになりました。
公園に行ってまず驚いたのは、野球をする人の多さです。木の実をボールに、枝をバットにして遊ぶ小さな子供から、ユニフォームを着用して、本格的な試合に熱中する大人まで、実に様々ですがみんな楽しそうです。また、草野球の試合が行われている球場の周りには、たくさんの人が集まって声援を送っています。プレーする人も、それを見る人も、みんな野球が大好き。顔にそう書いてあります。
ドミニカは、数多くのメジャーリーガーを輩出しています。テレビをつければ、いつもメジャーの試合が放送されています。その影響もあって、男の子は必ずと言っていいほど高い割合で、一度は野球に夢中になるそうです。完全に野球が根付いています。いい選手が次々と出てくるのも、この公園の熱気をみれば、頷けます。
私の練習内容は、キャッチボールやランニングといった基本的なもの。人数がいないので仕方ありません。もちろんそれがいちばん大切な練習であるのは間違いありませんが、フォークを覚えたり、ボール球を振らせるコツを掴みかけたりしていたその時の私にとって、実践登板も非常に重要でした。それだけに、このタイミングでチームが休暇に入ってしまったのは残念でした。
そんな私の気持ちを察してくれている人がいました。上之さんです。上之さんは想像もしていなかった大技を使って、休暇中の実践登板を実現させてくれました。
ある日、練習が終わる時間を見計らって公園に姿を現した上之さんが言いました。
「浩司、試合で投げたいだろ。」
「はい。」
私は、答えました。しかし、チームは休暇中なので、どうすることもできない。そう思っていたので、私は、少し残念そうに俯きました。その様子を見ていた上之さんは、何かを決心したようでした。
「ちょっとついておいで。」
上之さんは公園内を歩きはじめました。しばらく歩いてたどり着いたのは、野球場でした。グランドでは、サンディエゴ・パドレスのユニフォームを着た選手たちが練習をしています。公園がとても広かったので気がつきませんでしたが、パドレスのアカデミーはこの公園内で練習をしていたのです。上之さんは、監督らしき人に歩み寄って、何やら話しをはじめました。会話中、二人は時々、少し離れたところで立っていた私のほうに視線を送ってきます。会話はすぐに終わり、上之さんが私を呼びました。私が駆け寄ると上之さんが言いました。
「ここでやる明後日の試合で、投げさせてもらうことになった。先発で2イニングだ。」
「はい!?こ、ここでですか?」
思わず声が裏返りました。どうやら、この短時間で全く関係のない私が、1日だけパドレスの一員となって先発として投げることが決まったようです。監督らしき人がニッコリ笑って握手を求めてきたので、私も慌てて手を差し出して、丁寧に頭を下げました。
それにしても、驚きです。頼みに行くほうも凄いですが、あっさり受け入れるほうもまた凄いです。これも、おおらかなドミニカ流といったところでしょうか。心優しいドミニカ人と、それを育んだこの国がまた好きになりました。
そんな訳で、明後日は試合になりました。嬉しいことです。しかし、同時に強い緊張感も覚えました。
「無理を言って投げさせてもらっておいて、みっともないピッチングをするわけにはいかない。」
入団テストから今まで、「超」がつくくらいのプラス思考で突っ走ってきた私が、初めて陥った「失敗するわけにいかない」、「失敗したらどうしよう」という後ろ向きな感情でした。でも、今にして思えば、投手は皆、少なからず不安を抱えており、それを厳しい練習や強い精神力で打ち消してマウンドに登るものです。従って、この時、私が抱いた感情は、至って普通のことであり、私もようやく投手らしくなってきたといったところでしょうか。投手として初めて向き合った、そして絶対に越える必要がある壁です。この気持ちを乗り越えて、明後日、どれだけ強い心を持ってマウンドに立つことができるのか。私は、試されることになります。
長くなってしまいました。今日はここまでにします。お付き合いいただきありがとうございました。

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コメント(6)

いつも楽しく拝見しております。
広池選手のお人柄が表れていて、すてきなブログですね。
この「入団への道」の連載も、毎回とても楽しみにしています。

近いうちに、1軍でも活躍してくださいね。

細かいことを気にしない陽気なドミニカン・・・w
サインなんかもおおらかそうですね~
ドミニカに行ってみたくなりますww

piyo : 2008年6月23日 14:58

人に恵まれているというか
それに気付ける広池さんが素晴らしいです

まっつん : 2008年6月23日 13:31

お疲れ様です…m(_ _)m

この1週間の練習の成果が必ず実戦でも出る!!との力強いお言葉、期待してます!!
後は、雨が心配ですが…今の広池さんには、きっと天気の神様が味方してくれるんじゃないでしょうか…。
次の登板を楽しみにしていたいと思います。

今回も「入団への道」、じっくりと読ませて頂きました。
広池さんの周りには、いい方が集まる何かがあるんでしょうね…。
広池さんを見ていたら、分かる気がしますが…。
辛いときも前を向いて生きる「ポジティブな考え」というのは、言葉でいうよりも、大変なことだと思います。
その考えを植えつけてくれたというのは、広池さんにとって、凄い財産だと思います。
感謝してもしきれない…恩人ですね。
広池さんの周りの恩人の皆さんの為にも、これからも更なる飛躍を願っております。

今回もまた、次回が気になる終わり方なので、今から「入団への道10」がとても楽しみです。

広池さんお疲れ様です!

入団への道を読み入るように拝見させていただきました!
ドミニカではたくさんの温かい人に囲まれて過ごされていたんですね!
違うチームで登板することになったりと、次はどんなことが起こるのか想像つきません^^
ドミニカに行ってみたくなりましたよ!

続き楽しみにしています!

おおとんび! : 2008年6月22日 21:14

こんばんわ!
たった今、市民球場から戻って参りました。
ミニキャンプの成果を早く見たかったところですが、まずは、遠征お疲れ様でした。
さて、ドミニカでのキーパーソン、2人目が登場いたしました。
まったくもって、出会いに恵まれておられること、羨ましく思います。
また、ドミニカの風土が、常に良いほうに傾いてくれていることを痛感いたします。
「一度は野球に夢中になる国」。
これもまた、ドミニカと言う国とその人々を、もっと知りたくさせる言葉です。
その「お国柄」が、広池さんに与えてくれるものも、同じく「夢中」にさせてくれるものだったのでしょう。
「投げる日」、「走る日」とともに、「振り返る日」が、心のケアと合わせて、前向きな気持ちを呼び起こすことに一役かってくれることを願っております。
では。

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