入団への道(8)

今日は、降水確率100%の予報通り、福岡地方は一日中雨が降り続きました。試合は、中止になり、私たちは、昼過ぎからホークスの寮に隣接する、室内練習場で練習をしました。当初の予定よりやや投げる方の練習が多めになりましたが、やりたいと思ったことを、その気持ちに任せてやることも大切なことです。
明日も、午前中まで雨が残るようなので、試合ができるか微妙なところですが、今日よりは、可能性があるので、期待して明日を待ちたいと思います。
それでは今日は、「入団への道」の続きの話をさせて頂きます。前回は、実戦デビューを翌日に控え、気合いを入れる為に床屋に行ったものの、気合いが入りすぎた髪型にされ、少し落ち込んだところまでお伝えしました。
いよいよ、実戦デビューの日がやって来ました。(1998年)1月30日。カープアカデミーのグランドで行われた、ウインターリーグ、ヒューストン・アストロズのアカデミーチームとの対戦。高校、大学と私は野手でしたが、よく思い出してみると、高校時代に2試合ほど練習試合で登板しているので、これが、約7年ぶりの実戦登板ということになります。
試合当日。私は、背番号18のカープのユニフォームを与えられました。私は、テスト生の立場であり、契約はしてません。本当なら、他のテスト生と同様に、Tシャツを着用しなければならないところですが、上之さんの配慮によって、私のユニフォーム着用が許されました。
「浩司、あんたには、実力的にユニフォームを着る資格がある。いい番号だろ。頑張れよ。」
こう言われ、私はユニフォームに袖を通しました。少し型は古いですが、憧れのプロのユニフォームです。気持ちが高ぶりました。これを着ただけで、すごく野球がうまくなったような気がしました。
試合開始。不思議と緊張はありませんでした。予定は中継ぎで2イニング。出番が近づくにつれて、私は、軽い興奮状態になりました。しかし、緊張とは違う、いい意味で自分の世界に「入っている」状態だったように思います。投手を本格的にやっていたのは、中学生のときまで。小学生のとき、リトルリーグの常勝チームのエースとして、自信満々で投げた気持ちを、記憶に留めているものの、たくさんあったはずの失敗体験は、長い月日と共に殆ど忘れ去りました。我ながら、なかなかいい性格をしています。緊張とは、基本的には「失敗したらどうしよう・・。」という、後ろ向きな気持ちから生まれる場合が多いと思います。その日の私は、投手としての失敗体験を持たない状態だったので、今振り返ってもなかなか真似することができないような、最高の精神状態でマウンドに登りました。
「これだよ、これ。この感覚を求めていた。」
試合のマウンドに登ったとき、すぐに思いました。グランドの中心の少し高いところに立ち、守る仲間の期待を背にして、先頭を切って相手に立ち向かう。こんなにやりがいのあるポジションはありません。この場所に戻って来たことに、懐かしさにも似た感情を抱きました。
「そうだ。やっぱりピッチャーが好きなんだ。この場所に戻ってこれて本当に良かった。」
私は、「夢中」で投げました。恐ろしく集中していました。目に入るのは、キャッチャーミットと相手打者のみ。投球の際は、音も全く耳に入りませんでした。文字通り夢の中にいるような感覚です。腕がよく振れます。今までの練習では動いていなかった筋肉までもが、久しぶりの試合の興奮によって呼び起こされ、全ての力が総動員されて、指先を通して白球に伝えられました。自分の力を出し切るというのは、まさにこの状態を指すのだと思います。
結果は、2回を投げて、被安打2、奪三振4の無失点でした。上々のデビュー戦です。しかも、驚いたことにその日のストレートのMAXが92マイル(約147キロ)を記録。当時の私としては、ちょっと考えられない数字でしたが、すごく自信になりました。
登板後は、アカデミーの首脳陣、選手から次々と祝福を受けました。みんなすごい笑顔です。ドミニカに来て約3週間。アカデミーの選手達に合流して5日目。唯一の日本人である私が、本当の意味で仲間として迎えられた瞬間でした。この日、私は大きな自信を掴むと同時に、投手の楽しさも思い出しました。
私自身、初めての試合でこれだけの球が投げられるとは思ってもいませんでした。全く先が見えていなかった、「入団への道」に光が射し、入団を現実のものとして意識できるところまで到達しました。また、この日を境に、練習に対する意識、自分に対する厳しさが一段と増したように思います。そういった意味で、この初登板は、その後、長く続くドミニカでの日々を、戦い抜く力を与えてくれたように思います。
その後も、私は、試合での登板を重ねました。
[2月4日]投球回3、被安打1、与四球1、奪三振3、無失点。先発で3イニング。結果としては前回同様良かったが、内容に不満。雨による下の悪さに気を取られて、上半身に頼る投球になった。下半身が弱いからこうなる。
[2月9日]投球回2、被安打1、奪三振3、無失点。ストレートは走ったが、カーブが抜けた。でも、右打者の内角へのストレートは力があり、収穫。試合を締めて、セーブも付いたし実りある1日だった。
[2月13日]投球回3、被安打4、奪三振2、無失点。ウインターリーグ最後の登板。意気込みすぎ?球が走らず、コントロールにもばらつきがあり、出来は悪かった。しかし、走者を出しても粘り強く投げて、点を与えなかったのは収穫。悪いときにどう戦うかはとても重要なこと。
ウインターリーグが終わりました。登板ごとに様々な課題を露呈しながらも、終わってみれば、4試合、10イニングを無失点という結果が出ました。上出来です。これから、アカデミーはしばらく休みになります。しかし、私はもちろん自主練習です。誰もいないグランドで一人黙々と練習です。試合での登板を経験したことにより、課題が明確になり、やることが増えたような気がします。
私のモチベーションは、このとき最高に高まっていました。ドミニカに来て、約1ヶ月半。全てが順調に滑り出していました。
まず、「人」に恵まれました。上之さんを始め、私の周りの人たちは皆、私の挑戦を心から応援してくれています。
食事面も、もっと苦戦を予想しましたが、意外とドミニカの料理を食べられるようになりました。独特の香辛料を使った料理は、日本から来た私にとって当初は抵抗がありましたが、だいぶ慣れました。今では、朝と昼は、アカデミーの選手と同じドミニカ料理をご馳走になっています。それに、私たちの住むサント・ドミンゴの街には、日本料理、中華料理をはじめ各国の料理店がたくさんあります。栄養面での心配は無用です。これは、体が資本のプロ野球選手を目指す私にとっては本当に嬉しいことでした。
暑さも、今のところ大丈夫です。日中の日なたは、かなりの暑さですが、木陰は意外と涼しいときもあります。しかし、今は冬。暑さはこれからが本番。この点は今後が少し不安です。
言葉は、まだまだ。でも、時々聞き取れる単語も出てくるようになり、ちょっと楽しいです。日本から持ち込んだ、CDとテキストを使って勉強をしていますが、真面目にやれば簡単な日常会話くらいは、マスターできるかも知れません。
全てが充実。順調そのもの。これからも、いい毎日が続きますように・・。
今日は、ここまでにします。長い文章にお付き合い下さりありがとうございました。

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コメント(7)

まっつん : 2008年6月13日 04:11

お疲れ様です…m(_ _)m

1日遅れのコメントで申し訳ございません…m(_ _)m
ずっと鼻水が止まらず、何日か格闘しながらコメントを書いていましたが…とうとう昨夜は高熱が出てしまいました。
「う~んう~ん」うなりながら、ブログは読んだのですが、38度以上の熱だったので、コメントをする気力がありませんでした…。
今も37度あるのですが、変に眠れなく、気になっていたコメントを書くことにしました…。
いつも以上におかしい文章かとは思いますが、お許しください…。

「これだよ、これ。この感覚を求めていた。」という言葉に、ちょっと痺れました…。
本当に野球の好きな人だなんだなぁ~っていうのを、また実感する一言でした。
生きていくうえで、これだ!!というものに、出会うのは本当に貴重なことだと思います。
それを見つけられた広池さんは、凄い人です。
なかなかそれが、見つけられず苦労している人も多い筈です…。
せっかく出会えた道です。
これからも悔いの残らないよう、進み続けてください。

私は、応援することしか出来ませんが、それが、今の私にとっての
「これだ!」と感じていることなので…。
何の『力』にもなれない自分に歯がゆさを感じることもありますが、私も悔いのないように、応援し続けたいと思います。


広池さんお疲れ様です!

読むのが1日遅れましたが、今回も入団への道を読み入ってしまいました!
ありがとうございました^^
言葉は通じなくても、野球が仲間を結びつけ同じ気持ちを分かち合える!
やっぱり野球って素晴らしいですね!

続きを早く見たい気持ちで一杯です!


人が人を呼ぶ。
広池さんの場合、そういう感じがします。
今回のお話も震えがきました。
調子が出ない投手陣の方々にも是非読んでいただきたい文章です。
広池さんご自身も書いていて色々思い出すこともあるでしょうね。
その一つ一つが力になって、再び市民球場で投げるとき・・・
何だか涙が出てきそうです。

涙涙涙
ファンならおおよそですが知ってる話ですが、まず試合の細かい結果まで記載されていることに感動しました。広池さんのことですから、いまでも細かくメモされてるのでしょう。
外国で生活できるかは、圧倒的待遇があれが別ですが、その人の性格によるものが大きいです。無理な方はどうしたって無理です。私もそういう業界にいますから、わかるつもりです。。広池投手はやはり、あらゆる意味で人間力を備えた方なんだと思います。だから僕は好きなんです。広池さんが望むなら、永く野球界に貢献してくれる方だと思ってます。いまのカープの常識を覆してでも。
でも何より、現役の広池さんに期待してます。
普通の監督なら今広池投手が一軍に必要です(失礼しました)
永遠に期待してます。立教でバリバリやってた選手が我が故郷広島に入って(テスト生合格で即入団でもいいはずなのに)ご家族と一緒に暮らしてくださってるだけでも、
広島人(東京在住ですが)としてありがたいことです。ありがとう。
コズも佐竹も応援しますが、負けないで、チーム事情が許せば、広池投手は先発固定で調整してくれればいいのに、と素人ファン的には
思ってしまいます。右打者にだって勝負できますもんね。

千葉マリン敗戦の帰りで酔ってしまい、こんな時間に熱くなってしまいました。
結果論で広池投手を批判する人がいても、カープファンは皆広池さんに最大限の尊敬とありがたみを感じていると僕は感じてます。
僕は一応東京のファン集団に所属してますから、直にそれを感じます。広池さんが好投した時は、みんな僕におめでとうメールをくれます。
酔っぱらいの長文ですみません、ただ僕の周りのファンは、皆広池投手に敬意を表してます。経歴だけだからではありません。チーム事情に応じて何でもやってくれる、純良なカープファンならその大変さは
みな理解してます。そして、今季のカープにとって、広池投手の活躍なくしてチームの浮上無し、という認識はみな共有してます。
たとえ今二軍にいるとしても大半のファンは一軍でバリバリやってくれる選手との認識でおいかけているのです。
技術的なこと、チーム内の事情、僕ら素人には分かりません。ただとにかく、広池投手が勝ちゲームの中継ぎに君臨してくれたら、苦労人好きのカープファンにとってどれだけ素晴らしいことでしょう。
腕の振り、プロにとって大事なことでしょうが、ファンが皆知っている広池さんの経歴を踏まえて、広池さんが力投してくれるだけで、ファンはどれだけ幸せでしょう。結果論だけでごちゃごちゃ言うやつはカープファンでは少数と思います。
カープに苦労して入ってくれた、ずっと東京でプレーしてた方が広島に来てくれた、それだけで、カープファンは熱い思いを感じざるを得ません。いろんな事情があって、これからも一軍再昇格に障害は大きくなるかもしれません。でも私を含めて、広池投手こそ、真のカープ魂を持った選手として、支持されているし、20年後だって忘れられません。広池さんファンだけでなく、カープファンならみなその気持ちを持っているように感じてます。僕の広池贔屓を差し引いても、冷静にそう思います。
酒(千葉マリン敗戦のやけ酒)が入ってるので恐縮ですが、私が多くのカープファン仲間を見てきての感想です。
すみません、酔っぱらいの投稿で。でも広池さんの活躍=カープドリームなのです。というかそんなことより広池投手が好きで、野球以外の分野ですら、活躍してくれるものと期待してます。

長々失礼しました。どう考えても、広池投手の一軍での出番は近い(普通の采配なら)。二軍で先発調整してきた若手をとりあえず上げて中継ぎで投げさせるなんて、まああり得る用兵とはおもいますが、僕は違うと思います。
カープ優勝に向けて、広池投手はいなければならない戦力です。
われわれに想像できない大変さが多数おありでしょうし、結果を出さなければならないのでしょうが、ファンの勝手な希望は、二軍で仮に打たれようとも、広池さんなりに一軍で勝負所で投げるときの準備・テストができるならそれでいいと思います。

素人の酔っぱらいがすみません。ただ、今日の千葉マリンに広池投手がいなかったのが寂しかっただけかもしれません。

過酷な二軍でのプレー、体調維持大変でしょうが、常にノーアウト満塁でバースを迎えるくらいな気持ちで。活躍を待ってます。

けいさん : 2008年6月11日 22:21

こんばんわ!
「入団への道」楽しく読んでいます。広池さんのブログが人気なのは「心を引き付ける文章」「気配りが隅々に感じられる」「興味ある情報が1つ入っている」からでしょう。今からもカープファンに楽しいブログを発信してください。今日の1軍の大竹投手は良く投げましたが、厄病神がついています。どうしたら疫病神がにげますかね!「強運」の広池が「開運」してくれることを待っています。

おおとんび! : 2008年6月11日 21:51

こんばんわ!
予報通りとはいえ、雨を予想しての今日の練習は、いかがでしたでしょうか?
>「これだよ、これ。この感覚を求めていた。」
やはり、プロとして必要な資質のひとつを持ち合わせていたことを、痛感する言葉であります。
ポジティブな考え方の根底に、追い求めるものがあるからこそ、まさに「底力」が湧いてきたのではないでしょうか?
上乃さんも、「#18」のユニフォームが、広池さんにどんな影響を与え得るのかを知っていたに間違いありません。
もちろん、広池さんからは、溢れんばかりの「投げたいオーラ」が出ていたことも、疑うことは出来ないでしょう。
当時の広池さんと、今、戦っておられる広池さんが投げ比べたら、どうなるのか楽しみなところですが、
今日の雨、「入団への道」を書き上げるばかりでなく、当時の思いを甦らせ、明日への闘志を培う意味で、恵みの雨であったと思われます。
今日の「入団への道」同様に、先を見据えるような「光が射し」、結果が良い方向へと進みますよう応援しております。
合わせてチームの連勝も願っております。
では。

愛知の鯉兄 : 2008年6月11日 21:46

広池君この場所(一軍)に戻ってこれて良かったではなくこの場所が俺の居場所だと言わんばかりの姿を見せてね。同い年として応援しています。

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