入団への道(7)

今日は、ナゴヤ球場でウエスタンリーグの中日戦が行われましたが、3回終了後に、試合前から降り続いていた雨が強くなり、ノーゲームとなりました。登板間隔が開いているだけに、中止は残念ですが、時間ができたので、今日は「入団への道」の続きを書きたいと思います。
前回は、ドミニカの空港で、それまで一緒に自主トレを行ってきた野村さん、黒田をはじめとする日本人選手ならびに、当時、カープに在籍したペレス、ペルドモをはじめとするドミニカ人選手の出国を見送り、それまで滞在したホテルから、アパートへ引越しをしたところまでお伝えしました。いよいよ日本人の選手は私1人となり、ドミニカ共和国での修業もこれからが本番です。
日本人選手が帰国した翌日の(1998年)1月26日、この日から私は、カープアカデミーのドミニカ人選手達と一緒に練習を行いました。
ここにいる選手達は、実力を認められ、カープアカデミーと契約を済ませ、多額ではないものの、給料を貰っている「契約選手」と、その契約選手になるためのテストとして、練習や試合に参加している「テスト生」に分かれます。契約選手は、背番号のついたカープのユニフォームを着用していますが、テスト生は、自前のユニフォームらしきものを着用しているので、色とりどりで、まとまりに欠けます。もっとも、そんなことを気にしているのは、日本人の私だけでしょう。ドミニカの人達は細かいことは気にしません。契約選手であっても、上はホーム用の白のユニフォーム、下は、ビジター用のグレーのズボンという有り得ないスタイルで平然と練習をしています。ここはドミニカです。細かいことに目くじらを立てていたら疲れてしまいます。何でも有り得ることとして受け流す心を養っていかねばなりません。
そういえば、上之さんと街を車で走っていると、こんなことがありました。信号のある交差点で私たちの車が停止すると、道路脇から男の子が走って来ました。恐らく、まだ5歳か6歳くらいではないでしょうか。その子は、持っていた容器の中に入っていた泥水(多分、水溜まりの水)を突然、私たちの車のフロントガラスにぶちまけたかと思うと、汚れた布らしきもので拭きはじめました。呆気にとられて見ていると、今度は私の乗る助手席のほうの窓のところに来て、手を出しています。これは一体!?もしかして、お金をくれと言っているのか!?私が戸惑っていると、隣で上之さんが言いました。
「浩司、(窓を)開けちゃだめだ。」
信号が青に変わったので、上之さんは、車を走らせました。諦めたその子は、車から離れ、道端に戻っていきました。私が、ずっと目で追っていると、その子の走る先には、大人が座っていました。まさか、親!?家族ぐるみなのか!驚きました。「窓を拭いたから、金をくれ。」ということらしいです。しかも、あの一家は、あの「仕事」で生計を立てているのです。
その後も、「拭いた後のほうが汚い窓拭き」以外にも、交差点に止まるたびに様々なものを見ました。新聞売り、お菓子売り、生きた鳥売り、変な動物売り、どこかで拾ってきたもの売りなどなど、結局、ドミニカ滞在中に交差点で新聞以外は買うことはありませんでしたが、非常にインパクトのある出来事として、今でも鮮明に心に残っています。
話は逸れましたが、ここドミニカでは、今まで暮らして来た日本で培った常識にとらわれていたらいけないということです。
ドミニカ人選手との練習が始まりました。みんな明るく友好的なので、すんなりと溶け込むことができました。あるとき、日本語(カタカナ)で彼らの名前を書いてあげるととても喜ぶことが分かり、ほぼ全員の帽子の裏に名前をマジック書き、コミュニケーションを図りました。言葉はまだほとんど通じませんが、野球のルールや基本は何処でも一緒。何とかなるものです。ただ、のんびりとした国民性そのままに、練習も終始のんびりリラックスムード。練習と練習の間の休憩が長く、最後は流れ解散。いつ練習が終わったのかすら分かりません。日本人の中でもせっかちな部類に入る私にとって、ちょっとイライラするときもありましたが、
「ここは、ドミニカ。これが当たり前。我慢、我慢。」
と呟きながら、そのゆっくりした流れに逆らうことなく乗ることにしました。
ただ、足りない部分は、自分で補う必要があります。試合のない日は、基本的に午前中で練習が終わるので、午後からは、一人グランドに出て、走り込みをしたり、ネットに向かってボールを投げたりして過ごしました。アカデミーの広大な敷地を独り占めしての自主練習。何とも贅沢です。
私自身、プロの投手になる為には、全てが足りないと思っていました。中には、帰国まではたくさんの時間があるのだから、ゆっくりやればいいと言ってくれる人もいましたが、ゆっくりやっていては、全ての課題を克服出来ないと私は感じていました。従って、自主練習はほぼ毎日の日課になりました。
[異国の地の誰もいない広大なグランドで、一人自主練習。誰も見てないけど、黙々と走る。誰も見てないけど、黙々と投げる。練習に没頭してるうちに、太陽は西に傾き、辺りは一面燃えるようなオレンジ色に。南国の情熱的な夕焼け空を見上げ、私は汗を拭った。]
プロジェクトXの主題歌「地上の星」を流して欲しいくらいですね。野球に飢えていた私。やっと得た野球をする機会を、私は心から喜んでいました。疲れ果てるまで野球ができることが幸せであると同時に、頑張っている自分に少し酔っている部分もあったように思います。
ドミニカに入って、まだ3週間。私はとても元気でした。自主練習が終わって、首都のサント・ドミンゴに戻ってからも体力強化をする為に、アパート近くのホテル内にある、スポーツジムの会員になり、ウエイトトレーニングと水泳を行うことにしました。
練習環境も整い、順調にドミニカでの生活を滑り出した私に、朗報が届きました。私の試合での登板を打診していた上之さんのもとに、試合登板を許可するとの連絡が届いたのです。
「浩司!試合だ!投げられることになったぞ。いつがいい?早いほうがいいな。じゃあ、(1月)30日のアストロズ戦だ。頑張れよ!」
「はい!」
いよいよ、実践デビューが決まりました。大きな喜びと、ほんの少しの緊張を私は覚えました。
私は、試合前日に気合いを入れる為に、近くの床屋に散髪に行きました。結果は散々。コミュニケーション力不足から、激しく刈り上げられ、もみあげは切り落とされ・・。この髪型、気合い入り過ぎです。まあ、気にしない。ここは、ドミニカですから。
今日は、ここまでです。次回は、感激の実戦登板の場面からお伝えしたいと思います。

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今日から、日ハム2連戦です。2戦目はダルビッシュなので、 何とか1戦目は取っておきたい 続きを読む

コメント(9)

広池さんはせっかちなのですね!?ちょっと意外でした。
血液型B型の影響もあるのでしょうか??
わが家は家族全員B型で、かなりせっかち(というより、
いつもなんだかハイペース)です。

「気合いの入り過ぎた髪型」
…夜中にひとりで大爆笑してしまいました。。。
その髪型での実戦デビュー、どうなったのでしょうか。
続きがとっても気になります!

けいさん : 2008年6月 1日 10:01

「入団への道」毎回楽しく読ませていただいています。広池さん「スポーツライター,ドギュメントライター」になれますよ。明快でユーモアにとんだ文章は構成力に優れ、読者を離しません。本職のプロ野球選手もこの知力、毎日鍛えた体力、技、精神力、野球の幸運の神様が憑く運、で活躍を待っています。焦らず頑張れ。

まっつん : 2008年6月 1日 05:52

お疲れ様です…m(_ _)m

ナゴヤ球場の雨天中止、残念でした…(T_T)
家を出る時にはパラパラとしか降っていなかったので、張り切って自転車で行きましたが、球場近くになったら、雨足が強くなってきちゃいました。
おかげで、試合を観る前にすでにずぶ濡れ状態…。
こんな雨の中、強行して試合して怪我とかしないのかなぁ~と思っていたので、雨天中止は仕方ありませんね…。
ベランダにたくさんつるした、てるてる坊主は効かなかったみたいです…。
今日はいい天気みたいなので、広池さんと、新しいグローブにお会いできるのが楽しみです(^▽^)

今回の「入団への道」は笑い所満載で、楽しく読ませて頂きました。
一人異国に行って生活するというのは本当に大変ですが、いろいろな発見もあるんですね…。
日本国内の中でも、地方によっていろいろな違いがあるくらいですから、異国なら当然のこと…。
でも、広池さんのブログを読む限りでは、楽しそうだなぁ~と思ってしまいました。
気合の入り過ぎた髪型、見たい…(笑)
次回の「入団への道」も楽しみにしていま~す!!

追伸:今日のBGMは「地上の星」にしてみました…(笑)
昔のをひっぱり出したので、部屋の中が大変なことになっちゃいましたが…。


広池さんお疲れ様です!

『入団への道』、楽しみにしていました!
ドミニカでの習慣や、コミュニケーションなどで大変なことがたくさんだったと思います!
でもその中でも、居残り練習や練習に対する考え方は、さすが広池さんだと思いました!
ホームとアウェーを組み合わせた着こなし、気合い入りすぎた散髪には笑ってしまいましたけど^^
第8話も楽しみに待ってます!

明日は晴れて登板があるよう祈ってます!
頑張れ!広池さん!!

今回も「入団への道」楽しく拝見させていただきました。
僕も一昔前は野球部に在籍し、汗を流していました。
現在はプレーすることはほとんどなくなってしまいましたが、広池選手のブログを読んでいると当時の記憶が甦り、自身ももう一度野球をしたくて堪らなくなります。
次回の連載もまた楽しみに待ちたいと思います。

ひおっち : 2008年6月 1日 00:44

入団への道、待っていました!
ドミニカと日本とのギャップを至極真面目に受け入れて、時に自分つっこみしている広池選手がナイスですw
ドミニカでの野球生活、野球以外での、例えば広池選手の食事や医療なんかの日常はどんな感じだったんですか?もっと知りたいです!

なごやん : 2008年5月31日 23:14

毎日広池さんのブログを楽しみにしています。

試合前は小雨がぱらつく程度で大丈夫そうだったんですが試合開始を待っていたかのように雨足が強くなってしまい結局ノーゲームになってしまいました。しかしグラウンドコンディションの悪い中で試合を強行して選手が怪我をしたら取り返しのつかない事にもなりかねませんから、ノーゲームは仕方ないかと思います。

それでも、2回裏には長打コースになるであろう新井の打球に末永が追いついて好捕したり、3回裏には1死満塁のピンチで中日は投手の佐藤充にタッチアップを強行させましたが、丸と上村が見事にホームでアウトにしたりと緊張感がありました。まさにいつ試合終了になってもおかしくない悪天候ならではの攻防でした。

明日は晴れます。広池さんがマウンドに上がるのを楽しみにしています。ファームで結果を出し続ければ1軍が広池さんを必要とする時は必ず来ます。チームは現在3連敗中ですが明日勝って勢いに乗りましょう!

おおとんび! : 2008年5月31日 19:09

こんばんわ!
先日の「音楽」の話、昨日の「暗示」の話。
さまざまな形で、「野球」をとらえる広池選手が伺えます。
我々は、「入団への道」は、読ませていただくだけですが、実際に起こった事柄や、人とのつながりはもちろんですが、
文章をまとめられている広池さんの姿を想像すると、その執筆そのものが、広池さんに影響をもたらせているように思えてきます。
余談ではありますが、野球選手は、「ここぞ」というときに、「散髪家さん」に行かれる人が多いように思います。
是非とも、「ドミニカヘッド」で、「新スライダー」を投げられる姿、拝見したいものです。
いずれにしましても、素晴らしい財産である「ドミニカ」での経験、この文章とともに、姿を変えて甦って欲しいものです。
では。

リンクス : 2008年5月31日 19:05

気合い入り過ぎのもみ上げカットで大笑いしました。
明るく、楽しく、自分に厳しく、
今日出来ることを一生懸命行い、
明日は明日の風が吹く、案ずるより生むがやすしです。
絶対勝つぞ!カープ!

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