入団への道(3)

今日は、移動日(市民球場で練習後、神戸へ移動)なので、「入団への道」の話しの続きをします。
前回は、ようやく秋季キャンプ(由宇)参加まで漕ぎつけたものの、キャンプ初日のブルペンで、横で投げるプロの投手の迫力に圧倒され、自身が1球も投げないうちに、萎縮ぎみになったところまでお話ししました。
「それにしても凄い。しかもここにいるのは、現在は2軍に在籍している選手のはず。やはりプロのレベルは高い。」
大学時代は、野手として川上憲伸(明治)や三澤興一(早稲田)といったプロレベルの投手と対戦を重ね、そのレベルの高さを体感しているつもりでした。しかし、それはあくまでも打者の視点であって、投手の視点ではありませんでした。いざ、今、私の横で投げている投手と同じようなボールを投げろと言われても、それは無理な注文でした。野手上がりの私とは、明らかに異質の、キャッチャーミットを突き抜けて、どこまでも伸びていきそうな、強烈なスピンの効いたボール。まさにこれが、プロレベルの「投手の球」なのでしょう。
私は、自分を見失っていました。周りの投手のようないい球を投げようと、力みました。自分のできること以上の結果を求めて、結果的に、本来の自分の力以下のものしか出せない状態に陥っていました。
コントロール、ボールのキレ共に悪い状態が、数日続きました。強い球を投げようと力を入れれば、入れるほど、指先にボールが掛からなくなる悪循環に陥り、しかも、日を追うごとに左の二の腕の辺りが、痛くなってきました。
今思えば、投げる動作で痛くなるはずもないところを痛めるほど、悪いフォームで投げていたのでしょう。「このままでは駄目だ。全くアピールができていない。」焦りは募るばかりです。
キャンプインして、5日ほどたった日のことでした。その日は、投手全員、ブルペンでの投球練習がない、ノースローデーでした。ただノースローとはいえ、キャッチボールはあります。私の二の腕の痛みは、限界に達していました。もはや、握力もなくなり、腕全体に力が入らない状態でした。しかし、テスト生という立場上、「休みます。」とは口が裂けても言えません。
「困ったな。このキャッチボールをどうやって乗り越えようか。」
幸い、ノースローデーなので、キャッチボールさえ乗り越えれば、とりあえず明日を迎えることができます。私は、なるべく端っこのほうのコーチの目の届かないところで、やり過ごすことにしました。
それでも、全く投げていなかったら、目立つので、握力の落ちた左手で、何とかボールを支え、力が入らない左腕を何とか振り上げ、ボールを相手のところまで「運び」ました。そう、その動作は、もはや投げているとは言えないくらい、力感のない、緩やかな動作でした。
10球ほど、ボールを相手のグローブに「運んだ」ときのことでした。私は、異変に気付きました。
「ボールが指に掛かっている。」
ボールは緩いものの、回転数が普段の倍はあるのではと感じるくらい多く、不思議な感覚でした。その後、距離を伸ばしても、その良い感覚は変わらず、次第にリリースした後のボールが、「シュルルル」と空気を切り裂く音を立てるようになりました。知らないうちに、投げる球は速く、強くなっていましたが、二の腕は全く痛みません。
「気持ちいい!何だこの感覚は!」
心の中で叫びました。少なくてもここ10年以上は、味わったことのない感覚でした。子供の頃、リトルリーグでエースだった頃、こんな感じがあったような気もしますが、ずいぶん昔のことなので、それも定かではありません。
全く力を入れなくても、いや、腕に無駄な力が入っていないからこそ、自然にトップの位置が確立され、肘や手首が柔らかくしなり、ボールに多くの回転を与えられる状態になっていました。
まさに怪我の功名です。二の腕の痛みが、私に「投手の球」の投げ方を教えてくれたのです。それは、もう今までの私のボールとは別物でした。
「この感覚でブルペンで投げれば、周りの投手と同じレベルの球が投げられるはずだ。」
先の見えない、暗い一日で終わるはずが、一転、将来に希望を抱かせる一日に変わりました。うまくなる為のきっかけは、どこに転がっているか分かりません。諦めずにグランドに立ち続けることの大切さを、この日学んだような気がします。
その日を境に、私の投球は変わりました。長い間で染み付いてしまった、悪い投げ方は、簡単には払拭できないので、劇的に良くなるというわけではありませんでしたが、少なくても、何をすれば良いのか分からなかった今までとは違い、「こうすればみんなに追いつける。」というものが見つかったおかげで、周りを気にせず、自分のすべきことに集中するようになりました。
少しずつ充実感が出てきたある日のこと、ちょっと嬉しいことがありました。
いつものように、由宇で練習を終え、大野寮に戻る為のバスに乗り込むと、今考えると何故かは分かりませんが、この時の2軍キャンプに参加していた紀藤さん(現楽天投手コーチ)に呼び止められました。
「おい、テスト生!よく頑張ってるな。カープにご縁がありますように。」と言って、手に持っていた五円玉を私にくれたのです。
私は、緊張して、「ありがとうございます!」と繰り返し言い、その場を離れました。自分の席に戻っても、私の顔は紅潮したままでした。それも当然です。私から見たら、紀藤さんといえば雲の上の存在であり、もちろん話したのもその時が初めてでした。そんな人が私の為に・・。私は、嬉しくて、嬉しくて、バスが大野寮に着くまでの間、ずっとその五円玉を握りしめていました。
次の日から、私はその五円玉を大切に、野球バックの中にしまい込み、練習に参加し続けました。
気がつけば、キャンプも後半に入りました。夢中で練習に打ち込み、野球に集中できていましたが、やはり「カープにご縁があるのか」気になる時期になってきました。ドラフトも間近に控えています。
そんなある日、大野寮でついにスカウトに呼ばれました。「いよいよ来たか。」私は、この秋、何度目かの、胸の張り裂けそうな緊張感を覚えました。
「広池。結論から言うが、今年のドラフトではお前を指名することはできない。既に、指名予定人数の8名が確定してしまい、お前を指名するための枠は無くなった。今後のことはまた連絡するが、練習には継続して参加してくれ。我々としてもお前の頑張りは認めているから、何とかしてやりたい気持ちはある。」
そう簡単にはいかないとは思っていましたが、やはりショックでした。
「これで選手としての契約の夢は遠のいたかも・・。もういい年齢だからな・・。」正直、そう感じてしまい、しばらくその場から立ち上がることができませんでした。
今日は、以上です。続きはまた時間のあるときにします。ありがとうございました。

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自分が書いておいて何ですが、私の場合、そんなに人のブログを読みません。 というより、定期的にこの人のブログを拝読するということはこれ... 続きを読む

コメント(13)

隠れ鯉党 : 2008年4月16日 13:11

お疲れ様です。
いつも楽しく拝見させていただいてます。
広池さんのブログは読みやすく面白いです。
もう本当にその辺の小説なんかよりずっと…
これからも活躍とブログの更新楽しみにしています。

すみません、一つだけカープの戦いのことで言いたいことがあります。捕手のリードについてなんですが。
なぜ石原捕手のリードはあんあに外一辺倒なんでしょうか?もともと外中心のリードをする捕手だと思っていますが、近年はそれにも増して外、外、外って感じがします。ベンチの指示なんでしょうか?他チームの選手には、もはや外中心のリードが完全に読まれているような痛打の浴び方を幾度もしているように思えて、正直腹立たしいです。
内角を使って打たれた方がよっぽどマシです。これはおそらく多くのカープファンが感じていることだと思いますし、私はどうしてもそこを改善してほしいとずーっと思っていますが一般人で素人の私にはただただ我慢して見ていることしかできません。ここで広池さんのブログにこのようなコメントするのは大変恐縮で失礼なんですが、なにか変わってくれることを切に願いコメントさせていただきました。大変申し訳ありませんでした。。。

カープが勝てるチームになることを心より願っています。頑張って下さい。

いつも更新を楽しみに、読ませていただいています。
とても読みやすく、わかりやすく、広池ワールドに引き込まれます。

私は広池さんのように努力の積み重ねで活躍されてる選手を見ると、いつも以上に応援する気持ちが大きくなります。
ですから、関西遠征に来ているファームの試合を見に行く事も大好きで、そんな中から1軍へ上がってきた選手を見ると、とても嬉しいです。
紀藤さんからいただいたパワーのように、今度はファームの選手達に「広池パワーを!」
そして広池さんのこれからの活躍も期待しています!

今日からの甲子園3連戦、もちろん球場へ行って応援します。
甲子園では完全ビジター状態で、カープ応援席はほんのひと固まりにしか感じないかもしれませんが、今年から広島戦での「ビジター応援席」という席が、さらに1ブロック拡大されました。
それは関西にも多くのカープファンがいるという事だと思います。
カープには、関西遠征でも関西カープファンがついてる!
昨年のような関西での勝ち越しを期待しています!ALL-IN 激!

まっつん : 2008年4月15日 10:21

お疲れ様です…m(_ _)m

毎回、「入団への道」、感動と興奮の中、拝見させて頂いております。
広池さんの努力には、本当に頭が下がります。
10年たった今でも入団までの事をこんなに鮮明に覚えている…という『初心わするべからず…』の
気持ちが、今の広池さんの全てを作っていらっしゃるのですね…。
本当に広池さんの様な立派な方に対して、今までヘラヘラと挨拶に行っていた自分を恥ずかしく
思います。
今後は、少し大人しくします…(笑)

今でも紀藤さんから頂いた5円玉は大事に持っていらっしゃるのですか?
ご縁のあった5円玉ですから、これからもずっと大事にしてあげてください。

私も広池さんがルーキーのときに、初めてボールにもらったサイン、大事にしてます!!
実を言うと、その頃は、大野豊様が引退され、腑抜け状態でした。
今思うとそんな状態でサインを頂いたのはすごく失礼だったと思います…。
でも広池さんにサインを頂いたときに、何か「ビビビ」と感じるものがあったのです。
そのボールは、私にとって広池さんとのご縁があったボールなので、
これからも大事にしていきたいと思います。

いつもの如く、話しがそれました…。

今日からの対阪神戦。
『Good Job!!』ピッチング、期待しています。
青木高投手が2軍行きになってしまったので、左の中継ぎとして、活躍の場が増えることと思います。
自分の『力』を信じて、頑張ってください。


はじめまして!!
いつも楽しくブログ拝見させてもらっています。
今日からまた連戦ですね。
体に気をつけて頑張ってください。
遠い富山からスカパーで応援しています!

続きが気になります・・・。

入団への道、更新まってました!
そして今回もまた続きが気になります・・・!
広池さんのブログでは、プロの世界に身を置かなければ分からない視点や感覚を教えてもらえて、いつも新鮮なドキドキ感で読ませていただいています!
今日からまた戦いですね。
広池さんの登板を楽しみにしています!

すごく面白いし、なんだかエピソードのひとつひとつがジーンときます!
試合もありますし、無理せずのんびり書いてくださいね。
広池さんの登板とブログどっちも楽しみにしています!

もんさん : 2008年4月15日 00:57

昨日のやまなりボールに続いて、運ぶように投げる。早く試してみたいなあ。今でもこのような気づきってありますか?

言葉では言い表すことが出来ないけど、“運命”を強く感じる体験話ですね。
この話の続きもとても楽しみですが、今現在も輝かしい未来への通過点であることを信じたいです。

毎日、丁寧なブログをありがとうございます。
明日からの試合も楽しみにしています。

広池さんの疲れ様です!

続きを拝見させていただきました!
広池さんがキャッチボール好きなところが何だか分かったように思いました!
広池さんの頑張り、紀藤さんの優しさなど本当にいつ読んでもドラマのように吸い込まれてしまいます!
続き楽しみにしています!

明日からの甲子園での阪神戦頑張って下さい!

おやすみなさい!

「諦めずにグランドに立ち続けることの大切さ」
広池選手を尊敬します。

うわ、またいいところで終わるんですね。(笑)
紀藤さんから貰った5円玉を、バスの中で握りしめてる広池さん、可愛いです。
これも、映画化の時には外せないシーンですね。(笑)

明日からの阪神戦、頑張って下さい。

殿、やっぱり、きと君はいい人ですね。
現役時代にはよく球場で声援を送ったものです。
あのあまのじゃくで照れ屋(推測)のきと君が、私は好きでした。
今も楽天戦で投手交替時にのっそり出てくる姿を見ると、
「あっ、きとく~ん!」と注視してしまいます。
野村監督が投手コーチについて辛らつなコメントをしている時は、
「これはきと君のことかなあ」と、心配になります。

それにしても、
カープと殿の「鯉」のキューピットの一人がきと君だったとは……。
なんだかうれしゅうございます。
明日は勝てそうですよ、殿。

夢大陸の住人 : 2008年4月14日 23:07

お疲れ様です。

キャッチボールって本当に大事なんですね。
素人の私は、ただ肩を温める為に投げていると思っていました。
そんな簡単なものではなかったんですね。
でもその不思議な感覚を私も味わってみたいなー。

明日は是非阪神相手に頑張って下さい!
まだまだ夜は寒いので、怪我をされないように。。

明日も夢大陸(オーストラリア)から応援しますので!

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