入団への道(14)

今日は、由宇球場で練習を行いました。
野手は午前中に守備練習を行った後、昼からは徹底的に打ち込み。投手は、午後からの自主練習の時間を使って、各々の課題克服に汗を流し、有意義な時間を過ごしました。残りのゲームに向けて、チームは気合いが入っています。もちろん私も。明日も、いい練習をしてサーパスとの3連戦に備えたいと思います。
それでは今日は、「入団への道」の続きをお話しします。前回は、長かったドミニカ滞在を終え、飛行機に乗り込んだところまでお伝えしました。
飛行機は、3時間程で経由地であるニューヨークに到着しました。8ヶ月以上常夏の国で過ごした私にとっては、ニューヨークの秋の風は驚くほど冷たく感じました。今日は、空港に程近いホテルで一泊して、翌日の飛行機で日本に向かいます。
夕食は、私と同じ旅程で帰国する田中さんと、ホテル内のレストランで済ませることにしました。私達がテーブルに座ると、英語とスペイン語の2種類のメニュー表が用意されていました。ここニューヨークは、中南米の人達が多くいる為、特に、空港近くの施設にはこういった配慮があるようです。私は、スペイン語のメニューを手に取り、ウエイターにスペイン語で注文をしました。すると、ウエイターは、
「おー!!あなたは、スペイン語を使えるのですか!」
と凄く喜んでいました。どうやらこのウエイターも中南米出身で、アジア系の私が、スペイン語を話したことがとても意外であり嬉しいことだったようです。その後、ノリノリのウエイターのお陰で、とても楽しい時間を過ごすことができました。早速、ドミニカでの滞在が私に小さな幸せを運んでくれました。やっぱりドミニカへ行くことができてよかった。感謝です。
食後は、1人でホテルの庭に出て、目の前の滑走路を眺めていました。ニューヨーク・J・F・K国際空港は、とても大きな空港で、1年前まで航空会社に勤めていた私でも初めて見るような飛行機が、国内外へ向けて次々と飛び立っていきました。「飛行機が好きだから、飛行機のそばで働きたい。」という理由で全日空に入社した私にとっては、まさに絶景でした。「あの飛行機はどこへ行くのだろう。」そんなことを想像するだけで、ワクワクしました。いやがおうでも盛り上がる帰国へ向けての高揚感。それと同時に、ドミニカをついに離れたことへの寂しさが心の奥底に潜んでいることに気付き、私にとってドミニカがどれだけ大切な場所になったかを知ることになりました。ドミニカと日本との経由地で、両国への想いに浸りながら、私は、いつまでもいつまでもその場に留まり、飛行機を眺めていました。
翌日、遂に帰国の日を迎えました。朝の10時過ぎに空港に入り、手続きを済ませた後、ゲート近くで見慣れた「ANA」の飛行機を目にした時、何だか凄くホッとしました。そして、日本で行われる最後の厳しいテストへの恐怖心にも似た感情によって封じられていた帰国への想いが、このタイミングでドッと溢れてくるのを感じました。
「早く日本に帰りたい。そして、やってきたことを信じて、堂々と最後の勝負だ。」
私は、前向きな気持ちを取り戻し、機上の人となりました。
ニューヨークから成田までは、気流の影響もあり、行きより長い14時間を要します。私は、満席の狭い機内で、隣の人に触れることがないように大きな体を丸めながら、一睡もせずに起きていました。何度か眠ろうと試みましたが、興奮でとても眠れる状態ではありませんでした。
長い長いフライトを経て、飛行機はようやく成田空港に着陸しました。日本語の案内板があります。ここは日本です。遂に帰って来ました。私は、一緒に帰国した田中さんに丁重にお礼を言って別れた後、空港内の床屋さんに直行しました。ドミニカで苦労したことはいろいろありましたが、その一つがなかなか思い通りにならない髪型でした。ドミニカでは、住んでいたアパートの近くにある床屋に通っていましたが、何度説明しても、いかつい角刈りにされるし、
「もみあげはそのままにしておいて。」
と言っても、ちょっと油断した隙にバッサリ切り落とされるのは毎度のことで、正直怒りさえ覚えましたが、悪気はなさそうなので仕方ありません。まあ、別にオシャレなほうではないので、たいした問題ではなかったのですが、さすがに、角刈りが伸びて、黒いマリモみたいになった頭で日本の街を歩くわけにはいきません。ドミニカの床屋で苦い思いを重ねてきたので、成田空港の床屋さんは、日本語も話せるし天国のようでした。約30分後、私は何とか日本で通用する髪型に戻り、空港を後にしました。
帰国した翌日から3日間、私は、休みをもらっていました。休みの間は、家族に抱えきれないくらいの土産話をしたり、大好きなラーメン屋さんに行って、久しぶりのその味に涙したりして、心身共にリフレッシュしました。
迎えた9月23日。私は、いよいよ最後のテストを受ける為に広島に向けて出発しました。これから、ドラフトまでの約2ヶ月間、大野寮(ファームの寮)に住まわしてもらい、ファームの秋季練習とキャンプに参加します。夕方に寮に着いてすぐ、達川監督をはじめとするスタッフの方々、寮長、そして、何人かの選手に挨拶をしました。達川監督は、
「おっー!帰って来たか。いつから、練習するんだ?明後日からか。全部一緒にやってもらうからのう。お客さん扱いはせんけーの。」
私は、その言葉を聞いて身が引き締まる思いでした。それと同時に「お客さん扱いはしない」という言葉に大きな喜びを感じ、強い闘志が心の奥底から沸き上がるのを感じました。準備OKです。私は、今の精神状態ならこれから始まる大事な2ヶ月を乗り越えられると直感的に感じました。
翌日は、帰国の報告の為に、市民球場内にある球団事務所に出向きました。はじめは育成部へ行き、阿南さんと田中さんにお会いして、ドミニカでの話に花を咲かせた後、松田耕平オーナーの部屋に行きました。私が、緊張しながらも帰国の報告と施設を使わせてもらったお礼を済ませると、オーナーは、
「話は聞いてるよ。頑張ったね。頑張ったね。本当によく頑張ったね。」
と、優しい笑みを浮かべながら、私の労をねぎらって下さいました。心が温まるというのは、まさにこのことであると思いました。繰り返された「頑張ったね。」という言葉を聞く度に、私の心の中に、オーナーが愛してこられたカープへの熱い情熱が注がれていくのを感じました。オーナーに力を頂いた私は、ドミニカ行きを勧めて下さった松田元常務(現社長)にも同様に温かい言葉を掛けて頂いた後、幸せな気持ちで市民球場を後にしました。日本にも私のことを気にかけていた人がいることが分かり、私のやる気は頂点に達しました。
翌日、私は、秋季練習に合流しました。テスト生の為、大学時代の練習時に着用していた上から下まで真っ白なユニフォームでグランドに立ちました。監督、コーチ以下全員がカープのユニフォームを着ている中で、やはり相当目立っていて、若い選手に「25歳半人前。」などと茶化されて悔しい思いをしましたが、恥ずかしさはなく、逆に大きな反骨心が芽生えました。
「来年は絶対にカープのユニフォームを着て見返してやる!」
私は心の中でそう誓いました。
ファームはその時点で既に公式戦を終えていたので、翌年のシーズンを睨んで厳しい練習がスタートしていました。達川監督の「胃から汗が出るまで鍛え抜く」方針のもと、その練習は、前年とは比較にならないほどハードなものになっていました。午前中は永遠に続く走り込み。キャッチボールにたどり着くのは昼食後という厳しい毎日が続きました。ドミニカでやるべきことは全てやってきたつもりでしたが、やはり辛かったです。しかし、弱音は吐けません。私は、必死に毎日の練習に取り組みました。
今日は、ここまでにします。次回は、いよいよこのシリーズも最終回を迎える予定です。今回も、長い文章にお付き合い頂きありがとうございました。

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コメント(7)

まっつん : 2008年9月12日 13:58

本日、2度目のお疲れ様です…m(_ _)m
(最近は、当日になかなかコメントが書けずに申し訳ないです…)

今回の「入団への道」も感動と、少しの笑い…楽しく拝見致しました。
飛行機をいつまでも眺めるお姿…想像しただけで、広池さんマニアの私にはたまりません…。
さぞかし、かっこよく、ドラマのワンシーンみたいだったんでしょうね…。
でも、髪型は黒マリモ(笑)
それでも、きっと凄くかっこよかった筈です!!
何かを決意した男の姿は、どんなお姿でもかっこいい筈ですから…。

とうとう「入団への道」も最終回なんですね…。
本当にいろんな意味での感動と、そして勉強させて頂いただけに、とても淋しい気がします…。
私は「入団への道」を、あえて直筆で書き、残しております。
自分の字で書いて、より心に刻もうと…。
広池さんの思いのつまった文章ですから…。

本当にこういう場を作って頂いたことを感謝しております…。
ありがとうございます!!
今後もたくさんの思いを発信し続けてくださいね…。

必ず、広池さんのいろんな努力が報われますように…
頑張れ!!広池浩司!!
私も頑張ります!!

今からまた仕事に行ってきます。
明日からは甲子園・北神戸です!!


新宿カープおやじ&母 : 2008年9月12日 02:32

広池さん、お疲れ様です。

ついに日本に帰って来ましたね!

全日空を辞めてから、
1年足らずの間にあれだけの出来事があったんですよね。

J・F・K国際空港で滑走路を眺める広池さんの姿が、
眼に浮かびました。
さぞ、絵になっていたんでしょうね。

黒いマリモ頭の広池さん、少し見てみたいです(笑)

久々のラーメンの味は、それはそれは美味しかったんだろうな。

松田耕平オーナーのねぎらいの言葉もジーンと来ました。

広島にもどっての、監督がいきなり達川さん、
もうそれは軍隊以上の想像を絶する厳しい練習
でも、それに耐える事が出来たからこそ、今の広池さんがあるんですよね。

次回で、いよいよ最終回ですか〜 とても感慨深いです。
今シーズンが終わったら、改めてもう一度読み直そうと思ってます。
最終回、とても楽しみにしています。

今日の練習、アピール、がんばって行きましよう!!!

がんばれ!僕らの28便!!!

p.s.
9日にコメントさせて頂いた文章で、
雁ノ巣球場での試合の事を、勘違いして、
練習試合と誤って書いてしまいました。すみませんでした。

広池さんお疲れ様です!

今まで入団への道を拝見させていただいていたので、色んな思いが出てきて拍手を送りたい気持ちで一杯になりました!
日本に戻られて秋季練習やキャンプをどのように乗り越えられたか、自作を楽しみにしています!

それでは明日からのサーパス戦、全力で頑張って下さい!

頑張れ!広池さん!

ここしばらくの「入団への道」で、長くて短いドミニカでの時間を一緒に過ごしたような気分でいたことに気づきました。今日のを読み終え、「帰ってきたー」と自分のことのように思ってしまい、びっくり。

オシャレなほうではない広池さんも耐え難かった「黒いマリモ」。。。
見てみたかったです。

広島5150 : 2008年9月11日 18:38

いつも楽しく拝見させて頂いております。

市内で床屋を営んでおります。
今度、髪を切らせて下さい(笑)  ちなみにスコアラーのOさんがいらっしゃってます。
家系ラーメン横須○屋の元の店長もいらっしゃってますよ!
広池さんはいつも美味しそうに食べて下さってたと聞いております。
大人の事情でやめたのでラーメンの味が気になってるそうですよ。

お体に気をつけて無理されませんように!
それでは失礼致します。

広池さんこんにちは!
今日も、練習お疲れ様です!
そして、更新ありがとうございます、うれしいです。

今日の話は、床屋さんのくだりのところで笑ってしまいました。
だって、黒いマリモって(笑)
どんな広池さんでもステキだと思いますが、やっぱり自分がいいと
思える髪型とかって、気持ちが変わりますもんね~^^

そんで、ドミニカ滞在のおかげでもらった「小さな幸せ」
いい言葉ですね!
私も広池さんから、小さな幸せたくさんもらってます!
心が少しあったまるような、ほんとにそんな感じです。

もう次回は最終回なんですね><
読むのが楽しすぎて、終わっちゃうのがちょっとさみしいです。
でも、最後までこのお話を読める幸せを、かみしめます!

明日もレッツゴー!!広池さん!!


おおよんび! : 2008年9月11日 17:58

こんにちは!
読んでおりますと、過ごしていく時間や、起きる事柄が、まるで階段のように、次第に、緩やかに坂道を登って行くように感じられます。
と同時に、ドミニカを離れ、成田に降り立ったことを想像しますと、目指す山の頂もあたりが見渡せるくらいの所まで来ていることをうかがわせてくれます。
帰国後、練習を再開するまでのリフレッシュが、「床屋」、「家族」、そして、「ラーメン」と言うのが、素晴らしいです。
今でも、この「3つ」は、大いに広池さんを助けてくれている。。。そんな気がしてなりません。(笑)
「伸びきった気合いの入った頭」=「ドミニカ産、黒まりも」が、空港付近を彷徨う姿が、つい、目に浮かんでしまいますが、「気合い」を入れ直し、すでに始まっている「挑戦」を意識付けすることに、一役かってくれたことには、ドミニカ風のありがたさを感じます。
ここのところ、空は、素晴らしく青いです。
そんな空の「青」さに、そして芝生の「緑」に、28番の赤が映えますこと祈っております。
では。

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